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灰色の記憶

日記 6/25-7/1

6/25(金)

何の為に本を読んでいるのかわからない。別に理由なんていらないよ。


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海の遠くに鳥が……、雨に椿の花が堕ちた。鳥籠に春が、春が鳥のいない鳥籠に。

約束はみんな壊れたね。

海には雲が、ね、雲には地球が、映つてゐるね。

空には階段があるね。

今日記憶の旗が落ちて、大きな川のやうに、私は人と訣れよう。床に私の足跡が、足跡に微かな塵が……、ああ哀れな私よ。

僕は、さあ僕よ、僕は遠い旅に出ようね。

(三好達治『Enfance finie』)


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きょうも詩を書いた。



6/26(土)

たとえ僕がこの世から消え去っても、花は美しく咲くでしょう、月も綺麗に輝くでしょう。それが、この世界の本質です。

(上田早夕里『眼神』)


本物ではない、だが、偽物でもない。そこに価値を見出せるのは、私たちが人間であるからだ。

(上田早夕里『楽園(パラディスス)』)


「償いだと考えることすら、僕には人類の傲慢に思えるよ」

(上田早夕里『アステロイド・ツリーの彼方へ』)



6/27(日)

世界は彼にとっては恐怖と苦悶に鎖されていた。が、その向側に夢みる世界だけが甘く清らかに澄んでいた。

(原民喜『苦しく美しき夏』)


どんな残酷な真実でもいいから、私は自分の真実が知りたかった。

(村田沙耶香『消滅世界』)



6/28(月)

「だから、安心な発情なんてないのよ。人間はどんどん進化して、魂の形も本能も変わってるの。完成された動物なんてこの世にいないんだから、完成された本能も存在しないのよ。誰でも、進化の途中の動物なの。だから世界と符合していようが、いまいが、偶然にすぎなくて、次の瞬間には何が正しいとされるかなんてわからなくなっているのよ」
「……」
「私たちは進化の瞬間なの。いつでも、途中なのよ」
「……わからない。じゃあ、人間はいつ完成するの?」
「いつまでも完成しないのよ。クロマニヨン人だったころはそれが完成だと思われてただろうし、アウストラロピテクスだったときもそう。頭がい骨の形も、臓器の形も、手足の長さも、どんどん変わっているの。それに付随する、魂やら脳やらなんて、もっと容易く変化しているわ。正しさなんてものはね、幻影なの。追いかけてもしょうがないと思うわよ」

(村田沙耶香『消滅世界』)


正常ほど不気味な発狂はない。だって、狂っているのに、こんなにも正しいのだから。

(村田沙耶香『消滅世界』)


「お母さんは洗脳されていないの?洗脳されてない脳なんて、この世の中に存在するの?どうせなら、その世界に一番適した狂い方で、発狂するのがいちばん楽なのに」

(村田沙耶香『消滅世界』)


「どの世界に行っても、完璧に正常な自分のことを考えると、おかしくなりそうなの。世界で一番恐ろしい発狂は、正常だわ。そう思わない?」

(村田沙耶香『消滅世界』)


「お母さん、私、怖いの。どこまでも"正常"が追いかけてくるの。ちゃんと異常でいたいのに。どこまでも追って来て、私はどの世界でも正常な私になってしまうの」

(村田沙耶香『消滅世界』)


こんなにも悲しい、こんなにも悲しいのか、……何が?冷え冷えとした真暗な底に突落されてゆく感覚が彼の身うちに喰い込んで来る。こんなにも悲しい、こんなにも悲しいのか、何が……?この訳のわからぬ感傷は今かぎりのものなのだろうか、やがて別の日が訪れてくれば消え失せてしまうのだろうか……

(原民喜『美しき死の岸に』)



6/29(火)

頭が痛い。


小川洋子『海』(新潮文庫)、『最果てアーケード』(講談社文庫)、中山可穂サグラダ・ファミリア[聖家族]』(新潮文庫)、川上弘美『なんとなくな日々』(新潮文庫)、斜線堂有紀『私が大好きな小説家を殺すまで』(メディアワークス文庫)、シモーヌ・ヴェイユ重力と恩寵』(ちくま学芸文庫)を買った。


図書館に。伊藤計劃×円城塔屍者の帝国』(河出書房新社)を借りた。


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悪が侵すのは、善ではない。善は、侵すことができないものだからである。ただ、堕落した善が侵されるにすぎない。

(シモーヌ・ヴェイユ重力と恩寵』)


だれかがわたしたちに加えてくる悪を、わたしたちが果たした悪から救い出してくれるものとして受けとること。
本当に救いになるのは、自分で自分に背負いこむ苦しみではなく、外部から加えられる苦しみである。しかも、その苦しみが、不法なものであることすらが必要なのだ。不法に罪をおかしたというのに、正当に苦しむというだけではたりない。不法さを堪え忍ばねばならない。

(シモーヌ・ヴェイユ重力と恩寵』)


人を傷つける行為は、自分の中にある堕落を他人に転嫁することである。だからこそ、まるでそうすれば救われるかのように、そういう行為に走りがちなのだ。

(シモーヌ・ヴェイユ重力と恩寵』)


だれかが、わたしに害を加えてくるとしても、その害悪のためにわたしが堕落しないようにとねがい求めよう。それは、わたしを痛めつける人への愛のためであり、その人が実際にはどんな害も与えなかったということになるためである。

(シモーヌ・ヴェイユ重力と恩寵』)


どうしたら、この世界に悪がなくなるだろうか。世界がわたしたちの欲望とはなんのかかわりもないものとならなければならない。もしそうなって、その上悪を含まないとすれば、わたしたちの欲望がまったく悪そのものとなるであろう。そんなことがあってはならない。

(シモーヌ・ヴェイユ重力と恩寵』)



6/30(水)

何かしら自分というものが限りなく不憫でならかったのだ。自分をかばっていてくれるものが、この広い広い世界に誰一人ないように思われて淋しかったのである。ほんとに自分の命だって自分がちょっとでも油断しようものなら、どんなことになってしまうかわからないように思われて怖ろしく、そして哀れでならなかった。

(相馬泰三『六月』)


僕は風と花と雲と小鳥をうたつてゐればたのしかつた。詩はそれをいやがつてゐた。

(立原道造『詩は』)


嘘をつく人間は、無駄な嘘まで意識の奥でざわめく。それぞれに発芽した嘘が、僕から独立し、自ら表に出ようと騒ぐように。僕はそれらの一つを口に出すことで実現し、その嘘そのものに媚びたような感覚を覚える。

(中村文則『その先の道に消える』)



7/1(木)

ああ、ずっと寝てしまっていた。身体が、動かないんだよ。頭も、靄がかかってるみたいだし。とにかく、懈いよ。梅雨だからね。


まあ、まずは半年、お疲れ様でした。残り半年、生き延びられるか、見ものですね。はは、よろしくお願いします。








メモ

・蜂工場(Pヴァイン)
/イアン・バンクス

・虚構の男(国書刊行会)
/L・P・デイヴィス

・人形つくり(国書刊行会)
/サーバン

パッサカリア(水声社)
/ロベール・パンジェ

・水と礫(河出書房新社)
/藤原無雨

・密やかな結晶(講談社)
/小川洋子

・テスカトリポカ(KADOKAWA)
/佐藤究

・クオリティランド(河出書房新社)
/マルク=ウヴェ・クリング

・エレホン(新潮社)
/サミュエル・バトラー

・失われた時(風濤社)
/グザヴィエ・フォルヌレ

・環(水声社)
/ジャック・ルーボー

ブヴァールとペキュシェ(作品社)
/ギュスターヴ・フローベール

・蝶を飼う男(国書刊行会)
/シャルル・バルバラ

マルティニーク島 蛇使いの女(エディション・イレーヌ)
/アンドレ・ブルトン

・パリのサタン(風濤社)
/エルネスト・ド・ジャンジャンバック

・黒いダイヤモンド(文遊社)
/ジュール・ヴェルヌ

・秘められた生(水声社)
/パスカルキニャール

・大いなる酒宴(風濤社)
/ルネ・ドーマル

・判決(みすず書房)
/ジャン・ジュネ

・赤外線(水声社)
/ナンシー・ヒューストン

・帰還の謎(藤原書店)
/ダニー・ラフェリエール

ムッシュー・アンチピリンの宣言 ダダ宣言集(光文社古典新訳文庫)
/トリスタン・ツァラ

・愛の叙事詩 パルダイヤン物語(春風社)
/ミシェル・ゼヴァコ

・おしゃべり/子供部屋(水声社)
/ルイ=ルネ・デ・フォレ

・バビロン・ベイビーズ(太田出版)
/モーリス・G.ダンテック

・アミナダブ(書肆心水)
/モーリス・ブランショ

・壁抜け男(早川書房)
/マルセル・エイメ

・炎のなかの絵(早川書房)
/ジョン・コリア

・淡い焔(作品社)
/ウラジーミル・ナボコフ

・犬の心臓(河出書房新社)
/ミハイル・A.ブルガーコフ

・慈悲の聖母病棟(成文社)
/イヴァン・ツァンカル