4/30(土)
4/30(土)
僕は僕が苦しんでゐるのを人に見られることを恐れる。それなのに、自分の傷を自分の指で觸って見ずにゐられない負傷者の本能から、僕は僕を苦しませてゐるものをはつきりと知りたい欲望を持つた。
僕はあらゆる思ひ出を恐れ、又、僕に新しい思ひ出を持つてくるやうな一つの行爲をすることを恐れる。そのために僕は僕自身の影で歩道を汚すより他のことは何もしようとしない。
時間は苦痛を腐蝕させる。しかしそれを切斷しない。僕は寧ろ手術されることを欲した。
(堀辰雄「不器用な天使」)
僕はしみじみと、愛し合ふことは、苦しめ合ふことであるのを感じた。
(堀辰雄「死の素描」)
われは死者をもてど、彼等をして去るがままにす……
(堀辰雄「生者と死者」)
孤獨に、絶えず脅かされつつ、さすらひゆく
われには、未來もなく、屋根ももはやあらじ。
われはひたすら恐るなり、家も、日も、年も、
汝がためにわれの苦しみし……
(アンナ・ド・ノアイユ「生けるものと死せるものと」堀辰雄訳)
───どちらが相手をより多く苦しますことが出來るか、私たちは試して見ませう……
(堀辰雄「聖家族」)
「あの方さえお為合せになっていて下されば、わたくしは此の儘朽ちてもいい。」
そう思うことの出来た女は、かならずしも、まだ不為合せではなかった。
(堀辰雄「曠野」)
5/1(日)
吹く風をたもとに分かつ別れ哉
(「藤野古白句集」)
5/2(月)
・ハイデガー『存在と時間(一)』(熊野純彦訳 岩波文庫 2013.4)
・ハイデガー『存在と時間(二)』(熊野純彦訳 岩波文庫 2013.6)
・ハイデガー『存在と時間(三)』(熊野純彦訳 岩波文庫 2013.9)
・ハイデガー『存在と時間(四)』(熊野純彦訳 岩波文庫 2013.12)
・トーマス・オーウェン『黒い玉 十四の不気味な物語』(加藤尚宏訳 創元推理文庫 2006.6)
を買った。
5/3(火)
小説を書いた
5/4(水)
多和田葉子『聖女伝説』(ちくま文庫 2016.3)を買った。
5/5(木)
つまり彼は真白だと称する壁の上に汚い種々な汚点を見出すよりも、投捨てられた襤褸の片にも美しい縫取りの残りを発見して喜ぶのだ。正義の宮殿にも往々にして鳥や鼠の糞が落ちていると同じく、悪徳の谷底には美しい人情の花と香しい涙の果実が却て沢山に摘み集められる。
(永井荷風『濹東綺譚』)
5/6(金)
実在しない人を愛してはいけないなどというきまりはない。愛は虚構を実在にする。